報われない努力と、奪われ続ける私たちの豊かさ
朝から晩まで働き、税を納め、慎ましく法を守って生きる。それなのに、私たちの生活は一向に向上しない。むしろ、実質賃金は下がり続け、公共インフラは老朽化し、古くからこの国を支えてきた規範や資産が、いつの間にか見知らぬ誰かの手に渡っているような、奇妙な喪失感に包まれてはいないだろうか。
「真面目に生きている人間が損をする」という感覚は、もはや被害妄想ではない。この国を襲っているのは、一時的な不況でもなければ、不可抗力による災厄でもない。私たちが「自分たちの代表」として信じ送り出した者たちが、実はシステムの内側から、私たちの城壁に穴を開けているとしたらどうだろうか。なぜ、彼らはあからさまに「国民の不利益」となる政策を選び、天下りという名の甘い蜜を吸い続けられるのか。その残酷な構造を、一つの物語を通して解き明かしたい。
難攻不落の城、そして「裏口」を開く案内役
想像してみてほしい。あなたは、何世代にもわたって築き上げられた、巨大で堅牢な「城」に住んでいる。城壁は高く、食料庫は満たされ、人々は互いに助け合いながら暮らしていた。ところが、ある時期を境に、城の財産が外へと流出し始め、不可解な崩壊が始まる。
城壁の中で最も脆弱な場所、敵が最も攻めやすいポイントを、誰よりも熟知している男がいる。彼は城の要職に就き、鍵の束を腰に下げている「城の中の案内役」だ。深夜、松明を掲げた彼は、忍び寄る敵軍にこう囁く。「西側の排水口は腐食している。あそこから兵を入れれば、一気に王の間まで辿り着けるだろう。その代わり、城が落ちた暁には、私を新しい領地の代官にしてくれ」
あなたは、彼を「裏切り者」と呼び、激しい怒りを覚えるだろう。だが、彼の表情に罪悪感はない。むしろ、自分の仕事を完璧にこなしているという自負さえ漂っている。彼は城の住人の顔を見ない。彼の視線は常に、城の外にある広大な帝国の「本陣」に向けられている。彼にとって、城壁の内側の住人の命や生活は、自分のキャリアを積み上げるための交換条件に過ぎないのだ。
「城の中の案内役」という装置の正体
この物語は、比喩ではない。現代日本において、売国的とも思える政策決定が繰り返される構造そのものである。
外資と国際機関に最適化された「案内役」たち
私たちの社会において、この「城の中の案内役」を演じているのは、高級官僚や特定の政治家、そして彼らを取り巻く御用学者たちだ。彼らが推進する「構造改革」や「規制緩和」という名の政策は、一見すると市場の活性化を謳っている。しかし、その実態は、日本の公的資産や国民の富を、国際金融資本や外資系企業へと差し出すための「開門の儀式」に他ならない。
彼らにとって、国民の所得が上がることよりも、外資系コンサルティング会社から「よくやった」と評価されることの方が重要である。なぜなら、彼らの真の報酬は、退官後の天下り先としての外資系企業や、国際機関でのポストという形で用意されているからだ。彼らは日本の公務員という肩書きを持ちながら、その実、外資の論理で動くエージェントとして振る舞っている。
構造的な病巣と報酬体系のねじれ
なぜこの構造は維持され続けるのか。それは、この国の「人事評価権」が、もはや国内には存在しないからである。かつての官僚機構は、少なくとも「国益」という建前を維持していた。しかし、グローバル化という名の下に、政策の良し悪しを判定する審判員は、ウォール街や特定の国際機関へと移り変わった。
この「城」の中でどれだけ賞賛されようとも、外の世界で評価されなければ、彼らのキャリアは頭打ちになる。反対に、国民をどれだけ困窮させようとも、国際的な資本家にとって都合の良い法整備を行えば、彼らには「世界基準のリーダー」という称号と、莫大な退職金が約束される。彼らにとっての「成功」とは、国の未来を守ることではなく、国という資産をどれだけ効率よく外へと切り売りできたか、という点にかかっているのだ。
裏切り者というより「人事評価権を外国に握られたエリート」
私たちは彼らを「私利私欲に走った売国奴」と批判する。しかし、その解釈は半分正しくて半分間違っている。彼らは法を犯している自覚など微塵もない。むしろ、彼らが従っているのは「グローバル・スタンダード」という名の、城の外で定義された高度な規律なのだ。
この絶望的な不条理を終わらせるために、私たちは認識を転換しなければならない。彼らはもはや、私たちと同じ船に乗っている仲間ではない。彼らは「人事評価権を外国に握られた、外注先のエリート」に過ぎないのだ。
城を守るべき門番が、敵から給料をもらっていることを知ったとき、私たちはどうすべきか。必要なのは、彼らの「評価軸」を再び私たちの手に取り戻すことだ。誰が誰のために決断を下しているのか。その情報の流れを鋭く監視し、私たちの生活を切り捨てることで得られる「外部報酬」という回路を遮断しなければならない。
彼らが「城の外」ばかりを見ているのであれば、私たちはその視線を無理矢理にでも「城の中」の惨状に向けさせる仕組みを作る必要がある。私たちは、単なる被害者であってはならない。城の真の主権者は誰なのかを、彼らの冷徹な計算式に叩き込む時が来ているのである。
コメント