はじめに
モダンなCSSを使って華やかなサイトを作りたい、すべてのフロントエンドエンジニアとWebデザイナーへ。
最新のCSSプロパティを意気揚々と実装した翌日、クライアントから「iPhoneの古いOSで崩れてるんだけど?」という冷ややかなメールが届く。修正のために原因を突き止め、代わりのハックを探し、また検証する。その3時間は、本来なら新しいスキルの習熟や、大切な人とのディナーに充てられたはずの時間です。
今回は、そんな「互換性ガチャ」の恐怖からあなたを解放するために、編集部が現場で本当に使っているWebツールだけを厳選しました。なお、当初リストに含まれていた『BrowserStack』および『CrossBrowserTesting(現LambdaTest)』は、ブラウザ上で動作する「検証環境」であり、今回定義した「互換性状況を調べる辞書的Webツール」という枠組みからは外れるため、今回は除外しています。ツールを増やすことより、あなたの判断を迷わせないことを優先しました。
互換性チェックなツールを、3個紹介します。
【この記事で得られること】
- ✅ どのブラウザまでサポートすべきか、データに基づいた「断る勇気」が持てる
- ✅ 最新プロパティの代替案(Polyfill)を0.1秒で見つけられる
- ✅ 「動くはず」という希望的観測を、「動く」という確信に変えられる
1. Can I Use:世界標準の「互換性レーダー」
価格: 無料 / 検索ワード: Can I Use
どんなツール?
フロントエンド開発者なら、ブックマークしていないと「モグリ」と言われても仕方のない業界標準の検索サイトです。CSS/JS/HTMLの各機能が、どのブラウザのどのバージョンでサポートされているかを、鮮やかな色分けで即座に表示します。
【例え話で理解する】Can I Useは、まるで「深夜にやってるスーパーの半額シール」の見極めのようなものです。「これはまだ食べられる(=使える)」「これはもう危ない(=非対応)」を、瞬時に判別できます。もしこれを確認せずにコードを書くのは、賞味期限切れの牛乳をノーチェックで飲むのと同じくらい、翌朝(公開後)にお腹を壊す(バグる)リスクを孕んでいます。つまり、このツールは「お腹を壊さないための最終検品ライン」なのです。
🛠 おすすめの設定・使い方
- Settingsで日本市場に最適化: 日本のブラウザシェアは世界と異なります。Settings(歯車アイコン)から「Location」を「Japan」に変更しましょう。
- Usage relativeの設定: 「全ユーザーの◯%がその機能を使えるか」を表示できます。これがあれば、「あと0.5%のために時間をかけるのは無駄です」とクライアントを説得するエビデンスになります。
- 【裏技】URLの末尾に検索ワード:
caniuse.com/gridのように、URLに直接プロパティ名を入れると一撃で検索結果に飛べます。
✅ ココが凄い (Pros)
- 圧倒的な網羅性: 新機能がドラフト(下書き)段階から掲載されるスピード感。
- シェア率の可視化: 導入前シェア91.2%→導入後98.5%といった、具体的な影響範囲を数値で把握できます。
⚠️ ココが惜しい (Cons)
- 情報の密度: 画面が数字と表だらけで、初心者には「どこを見ればいいのか」一瞬迷う。
- 解決策の欠如: 「使えない」ことは分かりますが、「じゃあどう書けばいいか」までは教えてくれません(そこは次のMDNの出番です)。
💡 Web制作担当者へのベネフィット
Before:「たぶん動くはず」で実装。納品後に部長の古いiPhone(iOS 14)でだけレイアウトがガタガタになり、深夜まで緊急修正。
After:「Can I Useによれば、この機能はiOS 15以降推奨です。今回はフォールバックとしてこちらのコードで対応します」と事前に合意。枕を高くして眠れます。
【具体的な時短効果】
- 1日あたり:15分節約(バグ調査時間の削減)
- 月間換算:5時間節約
- 年間で考えると:60時間 = まるまる2.5日分の休日を取り戻せます
2. MDN Web Docs:全エンジニアの「聖書」
価格: 無料 / 検索ワード: MDN [プロパティ名]
どんなツール?
Mozillaが運営する、Web関連技術の公式ドキュメント集。Can I Useが「使えるか」を調べる場所なら、MDNは「どう使うか、何に気をつけるか」を学ぶ、全フロントエンド開発者の故郷です。
【例え話で理解する】MDNは、まるで「電子レンジに付属している分厚い説明書」です。ボタン(プロパティ)の場所だけでなく、中の仕組みや、やってはいけないこと(非推奨の使い方)まで、狂信的なまでの丁寧さで記載されています。これを見ずに開発するのは、説明書を読まずに電子レンジでスマホを充電しようとするくらい無謀な行為です。
🛠 おすすめの設定・使い方
- 「ブラウザの互換性」セクションへ直行: 各ページの下部に互換性一覧表があります。実はこれ、Can I Useよりも詳細な「特定のバグ情報」が載っていることが多いです。
- インタラクティブ・デモの活用: ブラウザ上で挙動を試せるので、自分の環境での動作確認がコンソールを開く前に終わります。
- 【裏技】「mdn」を検索エンジンのショートカットに設定: Chromeの設定から、「mdn」と打つだけでMDN内を検索できるようにしておくと、爆速で解決に辿り着けます。
✅ ココが凄い (Pros)
- 圧倒的な信頼性: GoogleやMicrosoftも協力しており、実質的な「Webの憲法」です。
- 教育的価値: 互換性だけでなく、アクセシビリティ(誠実なサイト作り)の知見も得られます。
⚠️ ココが惜しい (Cons)
- 情報の膨大さ: 知りたい情報にたどり着くまでに、関連知識という名の「森」で迷子になりがち。
- 翻訳のラグ: 最新情報は英語のみの場合があり、翻訳版を待つと情報が古いことも。(編集長のおすすめは翻訳を介さずDeepLで英ページを読むことです)
💡 Web制作担当者へのベネフィット
Before:StackOverflowで見つけた「コピペで動くコード」を貼り付け、原理が分からないまま納品。2ヶ月後に別のブラウザで不具合が発生し、再発。
After:MDNでプロパティの挙動を根本から理解。代替案(Polyfill)まで確信を持って選定し、保守性の高いコードを書ける「プロ」へと昇格。
3. Browserslist:静かなる「守り神」
価格: 無料(オープンソース) / 検索ワード: Browserslist
どんなツール?
これは「見る」ツールではなく、「設定する」ツールです。あなたのプロジェクトが「どのブラウザをターゲットにするか」を1行のテキストで宣言するだけで、Autoprefixer等のビルドツールが自動的にCan I Useのデータを読み込み、適切なコードに変換してくれます。
【例え話で理解する】Browserslistは、いわば「敏腕な翻訳エージェント」です。あなたが「世界中の人に伝わる言葉で話して(=最新のCSSで書いて)」と頼むと、エージェントが裏側で「ここはフランス語圏の人(=古いSafariユーザー)には通じないから、翻訳しておきますね」と勝手に調整してくれるわけです。これを使わないのは、海外旅行で現地の言葉を勉強せず、身振り手振りだけで意思疎通しようとするくらい非効率なことです。
🛠 おすすめの設定・使い方
defaultsを疑え: デフォルト設定でも優秀ですが、日本の案件なら> 0.5% in JP, last 2 versions, not deadくらいの設定が、保守と最新技術の最もおいしいバランスです。- Onlineバージョンの活用: Browsersl.ist というサイトに設定を打ち込むと、今この瞬間にどのブラウザが対象に含まれるか視覚的に確認できます。
✅ ココが凄い (Pros)
- 自動化の極み: 一度設定すれば、CSSを書くたびに互換性を気にする必要がなくなります。
- チーム間の共通言語: 「我々のサポート範囲はこれです」という定義を、設定ファイル1つで共有可能。
⚠️ ココが惜しい (Cons)
- 非直感的: UIが存在しない(設定ファイル)ため、慣れないデザイナーには壁が高い。
- 過信禁物: 画像のレンダリングバグなど、コード変換だけでは解決できない問題までは救ってくれません。
📊 全ツール比較表
| ツール名 | 価格 | 用途 | 信頼性 | おすすめ度 ||———|——|————|————|———-|| Can I Use | 無料 | 「使えるか」の判定 | ★★★★★ | ★★★★★ || MDN | 無料 | 「どう使うか」の辞書 | ★★★★★ | ★★★★★ || Browserslist | 無料 | 「自動変換」の司令塔 | ★★★★☆ | ★★★★☆ |
【編集長の推奨フロー】
- まず MDN で「正しい書き方」を理解する。
- 次に Can I Use で「どこまでのユーザーに届くか」をジャッジ。
- 最後に Browserslist で環境を整え、自動的に安全なコードを出力。
💰 ROI(投資対効果)計算
前提条件:
- あなたの時給:2,500円
- 互換性トラブルによる手戻り:月間平均4時間
計算:
- 月間損失:4時間 × 2,500円 = 10,000円
- ツール導入コスト:0円
- 純利益:10,000円/月
さらに、トラブルが減ることで精神的安定が得られ、クライアントからの信頼が高まる(リピートに繋がる)価値は、この10倍以上です。
❓ よくある質問(FAQ)
Q1. IE対応は本当に「不要」と言い切っていい?
A: WebブラウザとしてのIE 11は2022年にサポートが終了しています。もしクライアントが「IE対応」を求めるなら、「MS公式が終了させたため、セキュリティリスクがあること」を伝え、別途追加費用(時給の3倍程度)を提示すべきです。Can I Useを見せて、「利用者はほぼ0です」と言い切ってしまいましょう。
Q2. iOS版Safariだけ挙動が違うのですが…
A: Web制作界の「新・IE」と言われているのがiOS Safariです。MDNの「既知のバグ」セクションを確認してください。特に100vhの扱いなど、Safari特有の癖はこれらのツールで事前に回避策を仕込むのが定石です。
Q3. これらを全部見ても解決しない場合は?
A: 実機での挙動チェックが必要です。辞書ツールはあくまで「論理的なデータ」であり、OS固有のレンダリング挙動までは網羅しきれません。最後はiPhoneとAndroidの実機を1台ずつ握りしめて確認しましょう。
🎯 まとめ
「この機能、本当に使って大丈夫かな?」と悩んでいる時間は、クリエイティブではありません。
- 対応率を数字で示したいなら → Can I Use
- 深く理解して完璧なコードを書きたいなら → MDN
- 互換性対応から自動化で卒業したいなら → Browserslist
まずは今日、Can I Useを開き、あなたが昨日使ったプロパティを検索してみてください。「意外と未対応が多いな」と感じるか、「もうこんなに使えるんだ」と感じるか。その気づきが、明日の仕事の質を変えます。
ツールへの投資(使いこなし)を渋るのは、包丁が切れないのに研がずに料理を続けるようなものです。少しの手間で、コーディングのスピードは劇的に上がり、ストレスは消えてなくなります。
【最後に編集長から一言】編集部でも、昔は「IE6でレイアウトが崩れた」と泣きながら徹夜していました。あの頃にこれらのツールがあれば、もっと多くの休日を謳歌できたはず。あなたには、私のような後悔をしてほしくありません。データを持てば、あなたはもう、理不尽な修正依頼に怯える必要はないのです。
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